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コラム「吹奏楽部のための野球応援 黄金の9か条」


吹奏楽部のための野球応援 黄金の9か条 by 富樫鉄火
 現在、東京佼成ウインドオーケストラのCD『ブラバン! 甲子園』(ユニバーサル)が大ヒット中のようである。ミュージックエイトから発売されている、野球応援用のスコアを演奏したCDである。いままでこの種のCDはなかったので、まことにありがたい。

 ただ、このCDには、「野球応援」のルールについてまでは解説がない。いい機会なので、吹奏楽部にとっての「野球応援9か条」をお教えしよう。

 野球応援には、それなりのルールと礼儀がある。

 昔は、どこの学校にも「応援団」や「応援指導部」があり、吹奏楽部も彼らの指示に従って応援演奏していればよかった。

 だが近年、バンカラな雰囲気が敬遠されるのか、昔ながらの応援団は、すっかり消えてなくなってしまった。現在は、野球部の控え選手がそれらしいことをやっているケースが多いが、そのせいか、吹奏楽部にかかる比重がたいへん大きくなっている。

 野球の試合が盛り上がるもしらけるも、応援次第である。「古臭い」と思われるかもしれないが、以下が、本来の野球応援のスタイルである。少しでも参考にしていただいて、気持ちよく、思い切り、応援演奏をしていただきたい。


【第1条】音を出していいのは「攻撃」の時だけ

 吹奏楽部が楽器で音を出していいのは、自校チームが「攻撃」している時だけである。「守備」に回っている時は「声援」はかまわないが、絶対に楽器で音を出してはいけない。
  時折、興奮のあまり、自校の守備中に、ファインプレーに対してトランペット1本でファンファーレみたいなことをやったり、太鼓(バスドラムなど)を叩いているバンドがあるが、これも絶対にやってはいけない。「攻撃」中の応援タイムは、グラウンド上で「攻撃」している側のものである。なのに、守備側チームがそこで音を出すことは、いわば、相手の家に土足で上がりこんでいるような、たいへん無礼極まりない行為であることを、忘れてはいけない。



【第2条】3アウトになったら、途中でも即演奏中止

攻撃中の自校チームが3アウトになったら、その瞬間、応援の持ち時間は終了である。たとえ曲の途中であっても、すぐに音を消さなければならない。指揮者、もしくは応援リーダーは、よく試合状況を見て、3アウトになった瞬間、指示を出して演奏も応援も終了させること。
 逆にいえば、攻撃していた相手チームが3アウトになった瞬間、いままで守りで演奏を控えていた側は、すぐに演奏開始していいのである。
  だから、守りの回でも、状況をよく見て、相手チームが2アウトになったあたりから、次の演奏準備を始めておかなくてはならない。



【第3条】「旗」は掲げたら最後、試合終了まで微動だにさせてはいけない

 学校によっては、応援席に「校旗」「(応援)団旗」、もしくは、吹奏楽部の「部旗」を持ってくるところもあるであろう。学校の象徴を掲げることこそ、最大の応援なのである。
  だが、持ってきた以上、「1人」(応援団長や部長など)が、試合開始から終了まで、ずっと「両手」で持って掲げ続けなければならない。途中で別人に交代することもありえない。次第に疲れてきて、旗のポールが前に下がってくる。だが、「旗」の端を地面につけては絶対にいけない。旗は、常に中空に舞っていなければならないのだ。
  実は応援団長の最大の仕事は、これなのである。昔の応援団は、野球の試合で、最初から最後まで団旗を掲げ続けられる体力と忍耐力のある者が、団長になれたのである。
  両足を踏ん張って、端を団旗ベルトの「ポール・ポケット」に突っ込んで、ポールを両手で握り締め、1回表から9回裏まで(延長になれば、延長回終了まで)、ずっと、身じろぎもせず、立ったまま旗を掲げ続ける。炎天下、まことに過酷な仕事である。いま、これをやり通せる団長は、そうはいないであろう。
  普通、介添えが2人ほど両脇に控え、汗を拭いてやったり、水を飲ませてやったりする。
  これができないのであれば、最初から旗は持ってくるべきではない。ましてや、フラッグ・スタンドなどを用意して、そこにはめ込んで置いておくなど、言語道断である。旗は、団長の「手」で掲げられ、常に風になびいて、グラウンドの選手たちから見えていなければならないのである。



【第4条】木管楽器を使用する以上、覚悟が必要

 普通、野球の試合は、夏がいちばん多い。真夏の炎天下で行なわれる。
  吹奏楽部を中心とする応援団は、ほとんどが、屋根のないアルプススタンドに陣取る。経験のある方なら分るだろうが、直射日光の下で、2〜3時間、楽器を演奏するなど、本来、やってはいけないことである。楽器がイッパツでダメになる。
  特に木管楽器で、胴管が「木」でできている楽器――クラリネット、オーボエ、バスーンなどは、確実に痛む。マウスピースの中に、まるで塩を吹いたようなカス(ツバに含まれる塩分や、微量の食べカスが、熱で瞬時に乾いてこびりつく)が出るばかりか、ひどい時は、あまりの熱と急速な乾燥で、胴管が割れることすらある。
  そのほか、胴管が金属であっても、キイにタンポが使用されている木管楽器――フルートやサクソフォーンなども、いっぺんでタンポがダメになったり、金属部が膨張して、キイがいかれることもある。そのため、真夏の野球応援では、木管楽器の使用を禁止する吹奏部もあるほどだ(ただでさえ、だだっ広い野球場では、木管楽器の音など、ほとんど響かないのだから)。
  だが、栄えある自校野球部の応援ともなれば、そんなこと言っていられない場合もあるだろう。人数が少ない部の場合、なおさらだ。そこで、どうしても真夏の野球応援で木管楽器を使用せざるを得ない場合は、濡れタオルを常に用意し、少しでも吹かないですむ間は、身体の影になるようにし、濡れタオルを上からかけて、直射日光と乾燥から楽器を守ること。
  そして、演奏しない守備の間は、必ず、楽器を日陰のもとへ置いておく。屋根のある席が遠い場合は、アルプススタンド後方あたりに大きなパラソルを用意し、守備の間は、そこへ置いて濡れタオルをかけておければ理想的だ。
  なお、言うまでもないが、攻撃の演奏中にパラソルを頭上に掲げて、日陰のもとで演奏するようなことは、グラウンドで闘っている選手たちにたいへん失礼なことになるので、絶対にやってはいけない。



【第5条】グラウンドへ向けて吹いてはいけない

 よく、楽器をグラウンド上の選手たちに向けて吹いているバンドがある。実際、グラウンドで闘っている選手たちを応援するために吹いているのだから、そうしたい気持ちも分らないでもない。だが、考えてもいただきたい。演奏するのは自校が攻撃している時のはずで、ということは、演奏中グラウンド上にいるのは、ランナーでも出ていない限り、全員、相手校の選手である。その敵に向かって応援演奏をしても意味があろうはずがない。
 しかも、グラウンドで聴くスタンドの吹奏楽部の音は、たいへんハッキリ聴こえる。いうなれば「うるさい」のだ。場合によっては、選手同士、声による合図が聞こえなかったり、神経を使うプレーの際に、気がそれることもある。しかし選手たちは、応援に来てくれている以上、「うるさいから吹かないでくれ」とは絶対に言えない。
  実は応援演奏とは、敵チームの「応援スタンド」に向かって吹くものなのである。つまり、グランド上で選手同士が闘っているのと同様、我々は、応援スタンド同士で闘うのである。このことを分っていない吹奏楽部が多すぎる。我々の演奏、選曲、迫力、パワー、心意気――そういったものを、敵の応援スタンドに見せるのだ。
  だから特に朝顔楽器―トランペットやトロンボーンは、朝顔を敵スタンドに向けて吹くのを忘れないように。



【第6条】水・後頭部・楽器の三つを保護せよ

 近年、夏に野球応援をやると、吹奏楽部員で、熱中症や日射病で倒れる者が必ず出る。 理由は簡単で、水分不足と、後頭部への直射日光である。人間は、体内から水分が失われ、しかも後頭部(特に、首の後ろあたり)に直射日光を食らうと、イッパツで熱中症になるのである。
 応援席に入ったら、まず、太陽の位置を確認しよう。もし、顔面を直撃する位置に太陽があれば、日焼け止めを十分塗って、顔を守ることは、言うまでもない。
  もしも後方から日光が襲ってくるとしたら、格段の注意が必要だ。帽子が必需なのは当然だが、その際、濡れタオルで後頭部と首の後ろを覆い、その上から帽子を被ること。タオルは15分もすれば乾いてしまうから、常にペットボトルの水などで濡らすようにする。とにかく後頭部と首の後ろに直射日光が当たらないようにするのだ。
  小学校の頃、野外朝礼をやると、よく、倒れてしまう子がいなかっただろうか。もしかしたら、その子は、姿勢がよくなくて、いつも、下を向いたり俯いたりしていなかっただろうか。胸を張って、顔を上げて校長先生の話を聞いている子で、倒れる子は少なかったはずだ。俯いてばかりいると、後頭部と首の後ろに日光が当たる。だから倒れてしまうのだ。
  水分が必要なのは言うまでもない。楽器を吹く以上、糖分の入っているジュース類は厳禁である。楽器の中にツバと一緒に糖分が入ってベタベタになり、すぐに乾いてガビガビになる。必ず糖分のない、ミネラルウォーターなどにしておき、多めに用意しておくこと。楽器を守ることは前に述べた。
  つまり、真夏の野球応援では、「水分」「後頭部」「楽器」、この3つの安全を確保することが重要なのである。



【第7条】「打楽器」禁止だったらペットボトルを使え

 近年、都心にある野球場では、「打楽器禁止」のところが多い。スネア&バス・ドラム、シンバルなどは、意外に遠くまで音が響き、近隣住民に対する騒音迷惑になるというのである。だが、打楽器のない吹奏楽部の応援演奏は、まことに味気ないものだ。そこで、意外とズッシリとした音が出て、それでいて遠くまで響かないのが「ペットボトル」による代用打楽器である。
  いちばん大きなペットボトル(2リットル)を、カラでたくさん用意する。円筒形よりは、直方体に近い形のペットボトルの方が、しっかりしているようだ。
  ラベルをはがし、周りをビニールテープでグルグル巻きにする。できれば、テープの色は、スクールカラーで統一した方がいい。これを1人2個用意し、フタを取って、飲み口の部分を持って(さかさまにして)拍子木のように叩き合わせる(周囲をビニールテープでしっかり巻いておかないと、叩いているうちに潰れてヘナヘナになる)。
  1〜2人(2〜4個)程度では、たいした音にはならないが、5人(10個)くらいになってくると、意外と迫力のある音がする。これで、少なくともバス・ドラムの代用にはなる。腕のある打楽器奏者だったら、これでちょっとした曲のスネア・ドラムの譜面なども叩けてしまうだろう。違反ギリギリだが、ペットボトルをスネアドラム代わりにして、スティックで叩いてもいいかもしれない。
  もし数が用意できるのであれば、数十個、数百個用意し、吹奏楽部以外の人たちにも一緒に、単純なリズムを叩いてもらう。残響の多い野球場全体に広がる、その迫力ある音たるや、ちょっと驚くであろう。筆者の母校では、スクールカラーのビニールテープが巻かれた100人分(200個)ほどのペットボトルが用意され、ものすごい音を響かせている。敵スタンドから見ると、同一色の200個のペットボトルが一糸乱れぬ動きを見せて壮観である。



【第8条】決め所は1・7・9回の攻撃開始時

 これぞ、野球応援の基本ルールであるにもかかわらず、最近、めったに守られていないようだ。
 自校が、1回攻撃、7回攻撃、9回攻撃に入る際は、「校歌」「応援歌」など、そのチーム(学校)の「オフィシャル曲」を演奏するものである。1回攻撃は、いうまでもなく自校にとっての試合開始、最初の応援である。7回攻撃は「ラッキー・セブン」、幸福を招く回である。9回攻撃は、最後のチャンスである。
  もちろん「校歌」「応援歌」でなくとも、長年、その吹奏楽部(学校)で、伝統的に歌われてきたり、演奏されたりしている曲でもいい。
  なお、たとえば自校が負けており、最後の9回攻撃でもなかなか加点できず、いよいよ2アウト、ラストバッター(になるかもしれない打者)がボックスに立つ時――要するに、このチャンスを逃したら負けが決まる、という時は、一般的に、その打者の応援曲ではなく、校歌を演奏するものである。
  おそらく涙、涙で演奏などにはならないであろう。だが、我々は、自校選手たちのここまでの努力を讃えてあげなくてはならない。これこそが、野球応援における吹奏楽部の仕事なのだ。それには、校歌以上の曲はないのである。



【第9条】勝っても負けても、エールを忘れてはいけない

 試合が終了すると、普通、選手たちがアルプススタンドの我々の前にやってきて、整列し、一礼してくれる。いわば「応援してくださって、ありがとうございました」と言っているのだ。これに対しては、たとえ勝っても負けても、彼らの努力を讃え、キチンと拍手と声援を送らなければならない。
 この時、校歌を演奏することもある。それはかまわないが、ワンコーラスのみで、なるべく早く終えるべきである。これを終えたら、吹奏楽部は、普通は、もう音を出すことはない。
  問題は、その次である。
  まず、負けた側の応援団は、全員、起立して、勝ったチームの応援団に向かってエールを送らなければならない。文言は、リーダーが先導する。学校によって違うだろうが、おおむね、こんな調子である。
  「○○高校の勝利を讃え〜、今後の必勝を祈り〜、エールを送る〜! フレ〜フレ〜、○○! ソレッ、フレフレッ、○○……」
  これは、たいへんつらいエールである。負けた側が、勝った側を讃えるのだ。多くの女子は、泣き崩れて、声が出ないものである。だが、これだけは、キチンとやらなければならない。いわば「俺たちに勝った以上、これから先も、絶対に負けないで、勝ち進んでくれよ」とのエールである。
  勝った側は、このエールを受けたら、すぐに「返礼」しなければならない。もちろん、全員が起立して、負けた側の応援席を向く。
  「△△高校の〜、今後の活躍を祈る〜! フレ〜フレ〜、△△!……」
といった感じだ。
  このエール交換を終えて、初めて応援の終了である。
  おそらく、次の試合の応援団が、すぐそばに待機しているはずだ。大急ぎで撤収しなければならない。コンクールと同じだ。もちろん、ゴミ類もすべて持ち帰らなければならない。

  終了後は、楽器の手入れを特に念入りに。


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