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西山 雅人先生 (東京都・私立武蔵野東小学校)


 自閉症児と音楽教育

 私の勤める武蔵野東小学校は「自閉症児」を積極的に受け入れる学校です。今回は「自閉症児と音楽」という観点から私なりの教育音楽論を述べさせていただこうかと思います。
 自閉症はその文字が示すような「自分の殻に閉じこもる」障害ではありません。一般的な特徴としては言語の遅れ、対人関係の困難さ、感覚の不均衡、特異な行動、知的機能の不均衡などがあげられます。しかし、実は「自閉症=知的障害」ではないのです。そこが一般的に誤解されやすい部分ではあるのですが、知的な発達障害が認められない場合も多くあることを先に述べさせていただくとともに、最近では一応のくくりとして「自閉症スペクトラム」といわれる、いわゆる「高機能自閉症」や「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」など一連の自閉的傾向のある障害をも網羅した分類もあることを付け加えさせていただきます。
 しかしながら、これだけ医学が発達した今日であっても、実は自閉症の本質的な要因は明らかにされていません。ただ、その原因は成育歴に求められるものではなく、母親の性格とか養育態度によるものではないということは明らかにされました。一般的には脳の中枢神経の機能障害によるものであろうとされていますが、単一ではないいくつかの要因が重なって生ずる障害だろうとも考えられています。1,000人に1人〜2人以上いるといわれ、女の子よりも男の子に多いのも特徴のひとつです。
 さて、前置きが長くなりましたが、教育音楽界では「音楽療法」という言葉も珍しくなくなりつつあります。しかし、音楽療法もまた一言で言い表すことは困難です。日本音楽療法学会では「音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」という定義がありますが、なるほど、最もうなずける表現だと思います。「音楽療法」は「自閉症児」のためだけの療法ではありませんが、自閉症児であれ、健常児であれ、音楽のもともと持っている働きを積極的に有効活用して「心を豊かに」「生活に潤いを」させていく課程において、その重要性と役割が見事に表現されている定義だと思います。何やら結論めいたことを述べてしまいますが、「自閉症児と音楽」は何も特別なことではなく、「自閉症児に音楽」も当たり前の事柄であり、また、そうあるべきことだと思うのです。
 「自閉症児に音楽」することはとても難しそう、という印象があるかもしれませんが、決して難しいということはありません。ただ、指導者側に「根気」と「やる気」は必要です。もともと興味関心の幅が広いとはいえない場合が多い子どもたちですので、子どもたちのもともと持っている音楽的な能力をいかに引き出し、どうやって音楽そのものに興味と関心を持たせるか、「歌いたい」「演奏したい」という気持ちをどうやって育てるか、という課題からスタートするわけです。そのステップを外していきなり音楽活動に取りかかっても、おそらく反応を示す子どもは少ないでしょう。自閉症児であれ健常児であれ、やはり基本は「好きこそものの上手なれ」なのです。
 音楽の三要素「メロディ」「ハーモニー」「リズム」……このうち「リズム」は特に重要な位置づけを示すものだと考えます。人間が「音」を獲得したはるか昔からリズムは人間の生理的な感覚機能を培ってきました。母胎の中で赤ちゃんが心臓の鼓動を聞きながらこの世に生まれてくることも重要な要素でしょう。私の勤める小学校の音楽室では、休み時間になると子どもたちはまず太鼓を打ちます。音を聞きたい、リズムを打ちたい、気持ちよくなりたい、体に響くその感覚を味わいたいなど、その欲求がいとも簡単に解消できるからでしょう。武蔵野東学園の音楽では、幼稚園の段階で「太鼓」を自閉症児の教材として用います。最初のうちはめちゃくちゃに叩きますが、それでも子どもたちはそこに「面白さ」「楽しさ」を感じているでしょう。その次こそが教師の出番です。皆で合わせることの楽しさを味わわせる、音楽を感じながら叩くことの面白さを体験させる、その積み重ねがさらに音楽そのものへの関心を高め、心を豊かにしていくわけです。
 「ハーモニー」は音楽ならではの効果ですが、協和音であれ、意図的な不協和音程であれ、それを聴覚的に「心地よい音楽」にするためにはやはり重要です。「メロディ」は、「音楽は世界の共通語」といわれる所以がここにあります。つまり左脳を活用した「言語」を伴わずに自己表現、アピールすることができるのです。しかし、もちろん自閉症児にも歌は唄えます。たとえ言語が十分でなくても可能です。子どもによってはそれを言葉ではなく、目や表情や口形や体の動きなどで表現することもそうですが、そういう表面的なことだけではなく、心の内面に内在する音や音楽を感じる源がこのメロディなのだと思います。メロディ、リズム、ハーモニーが、文字どおり三位一体で効果を発揮するのが「音楽」だと思います。今の時代は「自閉症児にはもっと歌を…」という時代かもしれません。しかし、「自閉症児だから歌」でもないのです。しいて言えば「自閉症児にも歌」ではないかと思います。
 武蔵野東小学校では、全児童の約3割を占める自閉症児と残りの7割の健常児が相互に影響しあい、刺激しあって成長していく環境を整えていますが、音楽教育の現場においてもその成果は大きなものがあります。同年代、同学年の健常児、つまり、友達の音楽を耳にすることで自閉症児は鑑賞から表現を学び、健常児は自閉症児のひたむきな努力、頑張りを認めあうことができるのです。さらに、本校では基本は「集団教育」を行っています。声が十分に出ない子も皆と一緒に歌うことで音や音楽、歌を共有できるのです。そこにもまたお互いの刺激が生まれ、相乗効果を生み出すことができます。
 子どもの音楽的感覚は、音楽活動のみで養われるものではありません。簡単に言うと、音楽の授業だけでは音楽的感覚は養えないということです。日常の生活リズムの中で、自然で多様な音楽的体験のもと、指導者の援助によって内在する音楽性を引き出すことも求められます。毎日の生活の中で感じたこと、考えたこと、音や動きを表現し、表現することの喜びを味わうこと、またその表現の幅を広げていくように働きかけることも肝要だと思います。

■西山先生のHP:http://www5d.biglobe.ne.jp/~mt_west/index.html

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