No.44 音楽を超えたところでの......

 友達とトラブルを起こし、相手を深く傷つけてしまったAさん。楽器を持たせてもらえずにみんなの練習を何日も見学し、やっと復帰して1ヵ月。事件後に始めた私との交換ノートに書いてくれました。
 「人の悪口を言っていた頃と、言わなくなってからの今では、毎日が全然違います。毎日がとても楽しいし、人の良いところがたくさん見つかるようになりました」と。
 「学習に対する意欲がすばらしくなりました。視線をそらさずに、ひと言も聞き漏らすまいという姿勢の学習態度なので、見つめられている自分が恥ずかしくなるくらいです」と、担任教師からも、クラスでの変貌ぶりが伝わってきました。
 こんな子どもに出会うたびに、吹奏楽部の活動の、音楽を超えたところでの効力を感じて、とても嬉しくなります。音楽の魅力が子どもの悪い気持ちを追い払ってくれたようで……。
 子どもたちの学校生活でのトラブルは、もちろんないほうがよいのに決まっていますが、子どもですから失敗もしばしばです。吹奏楽に限らず、小学校の課外活動でそれなりの成果をあげようとすれば、失敗を引き起こしてしまう子どもたちの心の面を指導することは、避けては通れない重要な部分です。
 本校吹奏楽部のように、朝練なし、夏休みも1日3時間くらいの練習を15回程度、ふだんも、放課後はせいぜい1時間の練習などというバンドでは、子どもたちを音楽一色にすることはできません。お稽古ごとも、友達との遊びも大切という、ふつうの小学生の部分をたくさん残しながら、吹奏楽をしている子どもたちです。
 ですから、音楽の指導も大切ですが、心おだやかに安心して音楽に打ちこめる精神的な環境を整えることが、指導者の大きな仕事であると考えています。
 そんな本校の練習場では、今日も指導者が、音楽とは関係のないことを叫んでいます。
 「ムカツクだとかウザイだとか、そんな汚いことばを使っている同じ口で楽器を吹いても、いい音が出るわけがない!」

埼玉県さいたま市立大宮南小学校吹奏楽部
熱田 庫康

団員数:男子13名 女子63名   ※団員数は掲載当時のものです。
モットー:いつも仲間と音楽に誠実に。


 ミュージックエイトが訪校した際に、「大宮南小学校吹奏楽部の活動紹介」をみせていただき、とても参考になる指導方針と思いましたので、ここにご紹介させていただきます;

●大宮南小学校吹奏楽部の特徴

1.運営面
・月曜日に放課後練習はない。
・休日練習は月2回。(第1、第3土曜日の午前中)
・夏休みの練習は15回程度まで。
・夏休み等の練習では1日練習は避ける。また、気温が急激に上昇した場合は練習を打ち切る。
・年間の目標を定期演奏会におく。コンクールバンドにしない。
・コンクールでは、よい賞を目指すのではなく、よい演奏を目指す。結果が悪くてもよい演奏ができたら満足できる子どもたちを育成する。(逆に、よい賞をもらえても演奏がよくなかったら不満に思える子どもたちを育てる。)
・楽器の積み降ろし、ステージへの楽器のセッティングなど、自分たちでやる。(どうしても無理な場合だけ、先生や保護者の人たちに応援を頼む。)
・練習場所など、施設面では大きな課題を抱えている。最大の難問は、音楽室が狭いこと。

2.練習面
・楽器を持ったら楽器を吹く。楽器を持っているのに読譜をするのはもったいない。
・譜読みが重要。
・パートの役割を明確にした合奏練習。(カラーマーカーの活用)
・練習が少ないので、1回1回の合奏練習に高い集中力で臨む。

3.生徒指導面
・よい返事は、楽器の音に直結する。
・汚い言葉や悪口を言っている同じ口から、美しい音楽が奏でられるはずがない。
・休日練習の時は、感謝の気持ちを込めて、校内の掃除をしてから練習を始める。
・片付けや清掃は手の空いた人、気づいた人からどんどんやる。当番などは決めない。正しいことを勇気をもって言ったり行動したりできる子どもになろう。
・普通の小学生を捨てない。一流の演奏家にはなれなくとも、小学生として一流となる。

●「これだけの練習時間で、どうして?」とよく質問されますが....。
理由は、指導者本人もよくわかっていません。ただ、本校に独特な次のような要因が複合的に絡んでいるのだと思っています。
・練習時間以外に、部員や指導者が吹奏楽部のために使っている時間がある。部員→日常生活、譜読み、音楽鑑賞、個人練習(可能な子のみ)等、指導員→楽曲の分析、中古楽器の検索、新曲等の情報収集、生徒指導等
・基本的な生活習慣が身に付いていて、真面目に努力をすることのできる子が多い。また、どの子も指導者の話を真剣に受け止めて、実践しようと努力してくれる。
・都内に通うのに便利な地域であるのにもかかわらず、中学受験をする子があまり多くない。
・学校の吹奏楽部に対する温かい理解がある。
・保護者の理解、協力体制もすばらしい。
・地域に多くのファンがいて、温かい応援がある。
・近隣に、県立大宮高校、市立大宮南中学校があり、吹奏楽部の合同演奏をする機会がある。
・小学生としてはとても恵まれている楽器を使っている。(保護者の理解の大きさ)
・埼玉県という吹奏楽の盛んな地域にいるために、質の高い演奏に触れる機会が多い。
・4年生はコンクールには出ないなど、ゆっくり基礎を身につけていくようにしている。
・前指導者、前々指導者の時代からの長い伝統がある。
などなど、このほかにも指導者自身が気づいていない様々なバックアップがあって、大宮南小学校吹奏楽部の演奏が成り立っているものと思っています。

●吹奏楽部の活動を心から楽しむために

1.よい吹奏楽部員である前に、学校や学級のよい一員であること!
a. 課外活動は、もともと学級での学習や仕事を、しっかりと責任をもってやることのできる人だけが参加する資格をもつものと考えます。学級での決まりや、やるべきことをおろそかにする人は吹奏楽部員として認めません。
b. 吹奏楽部に参加することによって、宿題をさぼったり、クラスの和を乱すような人は、吹奏楽部の活動をしてはいけません。
c. 吹奏楽部の活動をすることによって、他の人がいやな思いをするようなことがないようにみんなで気をつけ合いましょう。
d. 掃除や給食当番などで、みんながやりたがらないようなたいへんな仕事を率直して行い、「さすがに吹奏楽部に入っている人は違うな!」と言われるように努力しなくてはなりません。なぜなら、君たちは、たいへん高価な楽器を使わせてもらったり、放課後の音楽室を独占したり、他の人よりもよい思いをたくさんさせてもらっているのですから、日常生活のどこかで恩返しをしなくてはいけないのです。
・「一流の小学生」を目指し、授業時間は、しっかり集中して勉強をしてください。
・宿題や提出物を期限前にきちんと出してください。
・クラスでは、吹奏楽部員のにおいをさせないこと。自慢したり、音楽の時間に得意がったりなど、特につつしんでください。
・練習が終わったら、他の場所には寄らず、できるだけ短時間で下校をしてください。
・休日や短縮期間のお弁当は、練習場所で食べ、他の場所には出入りしないこと。
・「音楽室や体育館は、吹奏楽部の練習が終わったあとが一番きれいだね。」と言われるようにしてください。練習後の整理整頓だけでなく、授業がしやすい状態に音楽室を保ってください。(片付けの当番は決めません。だれがやってもよいことです。)
・感謝の気持ちを少しでも表現するために、休業中の練習には、音楽室をはじめ、校内の清掃をします。

●音楽に対して、いつも誠実であること!

a. 吹奏楽部の活動は、「すばらしい音楽をすることで心がみがかれて、人間的にも成長し、その結果として小学校時代の楽しい思い出ができる」という活動です。何よりも、まず、音楽に対して常に真剣であり、まじめであり、誠実でなくてはなりません。楽器は正直ですから、練習をサボれば、サボったとおりの音がします。病気や体育課外などで練習にでれなかったら、どこかで時間を見つけて、少しでもよいですから、楽器にさわるようにしましょう。その気持ちが、必ず美しい音楽となって表れてくるものです。
b. 吹奏楽部は、集団で音楽をつくり上げていく活動です。個人的な楽器のおけいこごとではありません。練習予定表を見て、できるだけ練習時間に後から予定を入れないようにしましょう。(歯医者などの予約は、月曜日などに入れるようにしてくださいね。)
c. いつも音楽に対する勉強をしていてください。自分の吹いている楽器のよい演奏を聴いたり、テレビでオーケストラの演奏を聴いたり、参考となるCDをじっくり聴いたり、譜読みをしたりなど、いろいろな努力ができるはずです。楽器を持っていないときの努力がどれだけできるかが、上達の大きなポイントになるでしょう。何も努力しないでうまくなることは絶対にありません。
d. あまえて練習していたことは、必ず本番に出てきます。本番のステージの上で「あの時、もっと練習をしておけばよかった...」と思わなくてすむように、練習の時には、常に自分に厳しくあってください。
・楽器を持っているときは楽器を吹く!楽器を持ちながら譜読みをするのは時間のムダです。
・練習に来たら、最大の努力をして、うまくなること。
・指揮者からの注意には、必ず反応し、わかったら返事をし、わからなかったら、その場で聞き直すこと。
・練習中に、不必要な雑音や私語がでないようにすること。

●音楽をする仲間に対して、いつも誠実であること!

a. 吹奏楽部員に共通する気持ちは、「音楽が好きだ!」という気持ちでしょう。この気持ちはだれもがもっていることは間違いありません。それなのに、同じ部員に「あの人は、本当に音楽が好きなのかしら?」という疑問をもたれるような行為をすることは絶対にしてはならないことです。理由の不明確な欠席などがそれにあたります。このような行為は、仲間を大切にしているとはいえません。「この理由なら仕方がないね。」とだれもが納得する理由で欠席をしてください。また、欠席をした分を、必ずどこかでうめあわせをして、みんなと同じ音楽を目指しているということを行動で示してください。
b. 図工の時間に遊んでいて、その分放課後にいのこり勉強になったり、宿題をサボって放課後に残されたり、ということもみんなに迷惑をかけることになります。学校生活でやらなければならないことは、だれよりも精一杯がんばって、練習に胸を張って参加できるようにしましょう。
c. 同じ目的をもって集まってきている仲間です。文句を言い合ったり、傷つけ合ったりすることのないように、お互いに気をつかい合いましょう。
d. 仲良くするということは、互いに信頼しあうことです。互いに信頼しあうには、まず、自分が信頼してもらえる人にならなくてはなりません。自分の日常生活を振り返ってみてください。グチを言ったり、悪口を言ったり、汚い言葉を使っていたり、掃除をさぼっていたりしている人が、吹奏楽部でどんなに正しいことを言っても、信用してもらえないでしょう。自分の生活の中から、人にいやな思いをさせることをすべて取り除いて、初めて信頼される人となれると思います。
e. 一部の中学校の部活動のように、上級生が、下級生に対していっばたり、命令したりなどということは絶対に許されることではありません。たいへんなこと、つらいことは、上級生がやるのが当たり前です。なぜなら、楽器の下手な下級生は、少しの時間でも練習しなくてはならないからです。上級生は、楽器の技術や下級生へのやさしさがあれば、自然と尊敬のまなざしで見られるはずです。下級生は、立派な上級生に感謝の気持ちを忘れないようにしてください。
・もしも、練習を欠席するのであれば、その理由は、だれもが納得するものであること。
・休んだ日の練習内容や連絡事項は、次の練習日までに必ず自分の力で知る努力をしておくこと。「休んだのでわかりません。」は許されません。
・体育課外や学級の仕事があったとき、それらが終わって時間があれば、10分でも5分でも音楽室に来て練習をすること。
・互いに励まし合い、だれもが気持ちよく練習に打ち込めるようにすること。
・「むかつく」「死ね」「うざい」「きもい」などのみにくい言葉は、どんな時も、絶対に使ってはいけません。「〜してるしぃ↑(語尾上げ)」「はあ↑」「〜じゃない↑」など、聞く人がいやな気持ちになるような言い方もしないようにしましょう。
・人の悪口を言うことで、よいことは一つもありません。悪口を一つ口にすると、自分のまわりから幸せが一つ逃げていきます。絶対に悪口はやめましょう。また、うわさ話を無責任にまわすこともいけないことです。
・汚い言葉や悪口を言っている同じ口で楽器を演奏しても、美しい音楽を演奏できるはずがありません。
・お弁当を食べる時などに、「いっしょに食べよう」と言われたら、笑顔で「いいよ!」といいましょう。また、一人で食べる人がいないように、みんなで誘い合ってください。部の一体感を、どんな時でもつくっていきましょう。
・先生から厳しい注意がでて、一人が何度も吹かされたりしたような時、練習の後で、同じプレーヤー同士として、しっかりと励ますこと。しかし、決して甘えさせてはいけません。

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