No.52 82才の現役プレイヤー

 市民バンドのパイオニア(先駆者)渡辺喜一さん(82歳)は、今も北村大沢楽隊にて現役で活躍中。北村大沢楽隊は、今から80年前に農民バンドとして現在の宮城県石巻市に誕生した。大正末期に東京でプロの楽隊を見てきた住民の提案により「祭りなどを盛りあげるため」と、地主さんの援助を受け結成された。楽器の編成はトランペット、クラリネット、トロンボーン、大太鼓、小太鼓等。面白いのは大太鼓がゴロス、小太鼓がケースと、現在では耳慣れない楽器名で呼ばれていたことだ。楽器はそろったものの演奏の仕方はわからず、ときどき訪れる当時の無声映画時代の弁士(活弁)や楽士などに教えを乞うことが多かった。
 当時、田舎のほうでは、クラリネットはアメリカ尺八、トランペットはアメリカ法螺貝などと呼ばれるくらいに馴染みの薄いものであったが、渡辺さんは子どもの頃から音楽好きで楽隊の「追っかけ」になり、あちらこちらと演奏場所に足を運び、楽器にも馴染んでいった。小学校を卒業すると自分でもクラリネットを買い(当時12円くらい)、2代目のクラリネット奏者として楽隊に加わる。その頃から先輩には「呼吸の仕方が大事だ、呼吸だけは稽古しろ」とよく言われた。これが長つづきできた秘訣のようである。当時は楽隊に入る(音楽をやる)ことは「道楽者」=「不良」のように思われる時代であった。今は良い時代になったものである。
 そんななか、運動会、お祭りの他、チンドン屋さんと組んでのデパート等の宣伝演奏にも加わり、年間300日近くも演奏していた。これは全国を歩きながらの演奏である。演奏曲目は、マーチ、デキシー、松竹・大映の映画音楽、歌謡曲、童謡、民謡と多岐にわたっているが、特にジンタが多かった。ちなみにジンタとは3拍子の曲で、リズムからズンタッタ、ズンタッタ…ジンタッタ…ジンタと変わり、有名な曲に「天然の美」がある。またチンドン屋とは、あの馴染み深い太鼓と鉦の音からチンドンとなったとのこと。新しい楽譜が手に入ったときなどは、その曲を吹くのがこのうえない喜びだった。運動会での演奏は「ヨーイドン!」のピストルの音と同時にクラリネットが吹き始め、それに他の奏者が加わっていくという演奏スタイル。「走りに合わせた演奏」を聴いてみたいものである。そんな演奏もレコード、CD、カラオケの普及により、演奏の機会が少なくなっていった。残念ながら後継者はいない。
 北村大沢楽隊のCD「疾風怒濤」〔オフノート・19曲入り〕が、2005年の夏に全国発売された。北村大沢楽隊には日本の伝統的な音階、和声、リズム感が残っている。こんな消滅しそうな音楽を聴き、受け継いでいきたいものである。渡辺さんからの印象深いひと言は「好きなことをずっーとつづけることができ、ほんとうに良かった。本望だ」。これからも元気で楽隊をつづけていってほしいものである。

北村大沢楽隊
クラリネット=渡辺喜一、トランペット=桜井保、トロンボーン=中塩富夫、ゴロス(大太鼓)=木村匡一、ケース(小太鼓)=木村栄二

今回はCD「疾風怒濤」が話題となった北村大沢楽隊をご紹介しました。

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